2022年6月18日

参政党はなぜ気持ちがいいのか~スピリチュアリティに理屈はいらない

投稿者: ichiro_jeffrey

参政党の勢いが止まらない。2020年に誕生した新しい政治団体ながら、来たる参院選には比例代表への5人に加え、全45選挙区に1人ずつ候補者を擁立するという大規模な展開を予定している。

しかしこの参政党、特に知名度が高いタレント的な候補者がイニシアチブを取っている訳でもなければ、有力な業界団体や宗教法人が支えている訳でもなく、公式サイトによると22年6月14日現在で個人からの献金が3億3千万円を超えており、共同代表の吉野敏明氏のツイートによると党員数は56,000人を超えている。この数は長い歴史や強力な支持基盤を持つ既存政党の党員数に引けを取らないものとなっている。

新聞、テレビなどの既存メディアでその実態が報道されておらず、インターネットを通じて支持を集めてきた参政党だが、ここにきて夕刊紙ではあるものの著名な選挙プランナーが参政党が議席を獲得する予想を立てており、3年前のれいわ新選組、NHKから国民を守る党(現:NHK党)と同様に、政党助成金が交付される国政政党へのジャンプアップが期待されている。

にもかかわらず、参政党についてインターネットで調べてみようとしても、当事者や支援者たちのお手盛りの記事や動画か、アクセス数稼ぎのセンセーショナルな見出しに中身のない動画ばかりで、客観的な情報が乏しい。Wikipediaすらない。(何かしらの経緯があって削除された模様)

当初、野党や朝日新聞、隣国の批判で人気を集めているYouTuberのKazuya氏を中心に右派論壇の評論家や元政治家が集まって結党され、その後メンバーの入れ替えがあり、現在は元吹田市議会議員の神谷宗幣氏と、歯科医師で医療系の著書が複数ある吉野敏明氏、日本維新の会で衆議院議員を1期務めた松田学氏、大日本愛国党元総裁、赤尾敏の姪で実業家の赤尾由美氏、工学者の武田邦彦氏の5人(参政党では「ゴレンジャー」と呼んでいる)が参議院比例候補として前面に立ち、運動を展開している。

新宿駅西口で演説する参政党と集まった支持者

‪れいわ新選組は山本太郎という圧倒的なカリスマが率いていたことが、NHKから国民を守る党は19年参院選を見据えて順調に地方議会で議員を増やし足場を固めてきたことが、政党要件獲得のカギになった訳だが、参政党で表に出ているメンバーは、保守系メディアなどで目にする顔があるものの、失礼ながら一般にそれほど知名度に優れた人々とは言い難い。また、所属の地方議会議員は存在するものの、「参政党公認」で選挙を戦って議席を獲得した人はまだいない。(6月21日投開票の加古川市議選に立候補した北利和氏は次点で落選)

本稿では、おそらく来たる参院選で議席を獲得すると目されている参政党に触れた人々はなぜ熱狂してしまうのか、その状況がなぜ「危うい」と言えるのかについて、10時間程度参政党の予定候補者らの演説動画を見て、演説会場にも足を運んだ上での考察を記してみたい。

前半では参政党が展開する運動の特徴を、後半ではそれが孕む問題点について指摘してゆきたい。

演説する神谷宗幣参政党事務局長

1:参政党の「参政」性について

参政党はメンバーシップ制度を取り入れており、無料で週に一度、党の活動やイベントに関するメールが届く「サポーター」から、月額500円のメルマガ会員、月額1000円の一般党員、月額4000円の運営党員まで多様な入口を用意しており、それぞれに「学び」と称した運営者からのレクチャーや会員同士が交流できるコンテンツが用意されている。

重点政策として①「子供の教育」、②「食と健康、環境保全」、③「国のまもり」を掲げ、その他10の政策の柱を掲げているが、基本的には特段の政治経験を持たない一般の党員とともに政策を作り上げる仕組みで、誰もが政治に参加できる「DIY政党」の形を取っており、「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつくる。」というスローガンにそっている。街頭演説でも、登壇者が一方的に話しかけるだけでなく、質問のある聴衆に積極的にマイクを回して、それに答える対話の姿勢を全面に打ち出している。

(ただし、その前提となっている基本政策や綱領の問題点については後に触れることとしたい)

2:インナーサークル

参政党の演説を聞いていると、独特の用語が繰り返し現れることに気づく。登壇者は掴みの最初のセリフとして「私は誰ですか?」と聴衆に問いかけ、聴衆は声を合わせて登壇者のあだ名を叫ぶ、といった形式のものや、イメージカラーとして用いているオレンジ色について「だいだい」と呼び、「祖先から代々受けついでいる日本の伝統を受け継ぐ」という党の理念に引き寄せたり、あるいは「ゴレンジャー」と自称しているメンバーの間のプライベートの話を演説に盛り込むことで、参政党に既に関わっている人たちの中の仲間意識を育てることに成功している。

また、「参政党でみなさんが勉強している通り〜」といったように、コミュニティ内で繰り返し解かれているロジック、例えば、アメリカに食べるよう仕向けられた小麦を食べるのをやめて、ご飯を食べれば健康になる、といった話についてはある程度の聴衆は理解・同意していることを前提に街頭演説が進んでいくのも参政党の既に出来上がっているインナーサークルを示すものだろう。

このインナーサークルに入ることを「目覚める」と表現するのも特徴的である。まだ仲間になっていない人も眠っているだけで、「目覚め」れば仲間になってもらえる、という含みをサークル内メンバーが共有しているのかもしれない。

3:日本人であるだけで全肯定してくれる

参政党の綱領は以下の通り

一、先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる。

一、日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する。

一、日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる。

https://www.sanseito.jp/philosophy/

DNAに宿っている「大和魂」を持つ日本人は他の国より優れており、ゆえに日本はもともと素晴らしい国であるが、戦後、外国の影響により良い部分が失われてしまったので、それを取り戻そう、という選民思想を参政党は基本に据えている。

この主張の是非については後ほど述べるとして、参政党に意識を向けた有権者は、自分自身が日本人であるという一点だけで非常に大きな力を持つ大切な存在であるということが認められて、圧倒的な肯定感を得ることができる。これが参政党に魅了される理由の一つであることは間違いない。

4:仮想敵が明確

上で述べた通り、基本的に大和魂を持った善である「我々」とそれを外国資本に売り渡そうとしている「勢力」の二項対立を軸として論が展開されているので、非常にわかりやすい。新型コロナウイルス対策にしても、外国資本から押し付けられたものとして忌避する論調であったり、食の安全といって輸入食材を避けることを推奨する話でもこの二項対立が多用されている。

5:ナチュラリズム

先に述べた通り、参政党は「食と健康、環境保全」を重点政策の2番目に掲げており、農薬や食品添加物の問題については既存の政党と比較して、かなり重きを置いていることがわかる。参政党の支持者には、有機農法やオーガニック食品などに対して感度が高く、それが接点となって入党した人たちも少なくない。

これを現状のコロナ対策政策批判や「大和魂」論に結びつけて政治の場で問うてゆく、というやり方は参政党の発明と言えるだろう。

6:コロナ対策

参政党の演説会にいくと、その支持者と思しき聴衆の方々のマスクの着用率の低さが気になる。参政党では積極的に「マスクを外そう」とか「マスクは悪」といったような極端な主張がなされている訳ではなく、小学校でのマスクの押し付けを疑問視したり、親の顔を見ないで育った乳幼児に発達の問題が生じるようになったといった例を持ち出して、子供の問題として立論している。これが、ナチュラリズムと同様、子育てについて悩みを抱えている層が参政党と接点を持つきっかけとして機能しているようだ。また、参政党員がコロナ対策について語る時、ワクチンを「オチューシャ」、コロナを「ハヤリヤマイ」と言い換えている。これはYouTube等での規制対策とインナーサークル向けの独自用語の両方であると考えられる。

以上の通り、参政党の特徴とその戦略について分析してみた。

一部で言われているように、参政党自体に何か別の団体が背後で支援している、というような感じは今のところ受けないし、一般の市民から寄付が集まっている、というのもおそらく本当だと思われる。

参政党は、多くの市民団体が目指してきた、理想的な政治団体としての成長を実現していると評価できるのではないだろうか。それも誰にも開かれた民主的な形で。

一方で、参政党が抱えている危うさについてもしっかりと触れておきたい。

1:ジェンダー意識の低さ

参政党では、大和魂を強調する文脈で、男性は日本男児として大切なものを守る、女性は大和撫子としてそれを後押しする、といった典型的な性別役割分業を全面に出していることに注意したい。(また「この国を守るべき」という発想がそのまま全体主義に直結することも指摘したい)

また、既に掲げられている政策にはLGBTQに関する記述はなく、党員とのディスカッションで政策を作っていく、という方針が掲げられているが、イニシアティブを取っている人たちの発言を見る限り、ジェンダーマイノリティに対して積極的な政策が立ち上がってくることは期待できないだろう。

演説イベントでも、司会者が登壇者の紹介の際にことさらその見た目の「美醜」を持ち出して笑いを取る、という様子も度々見られ、イシキカイカクの必要性を強く感じる場面がある。

2:排外主義の片鱗

参政党が繰り返し主張している二項対立が「日本人とそれ以外」「我々日本人とグローバル資本」で、外資に日本の土地が買われていることを非常に大きな問題として取り上げており、候補予定者の中には、留学生が9割を占めている県内の私立学校があり、そこに公金が使われていること問題視するなど、ことさら外国人を敵視する方向性が見てとれる。

「私たち日本人は大和魂を持った特別な存在」という理屈を超えた考え方に基づいているため、これを方向転換するのは容易ではないだろう。(特に、私自身が「純粋な」日本人ではないため、《大和魂》論に同調できないどころか恐怖を覚えてしまうことは割り引いたとしても)

3:ロジックを超えた感情の高まり

「参政党の演説は心を揺さぶる」といった評価がSNS上で多く見られる。確かに、吉野氏も神谷氏も演説がうまく、理屈よりも感情に訴えかける、既存の政治家があまり得意としてこなかった部分をカバーできている。一方で、演説がうまいあまり、無茶苦茶な歴史認識や科学的知識についてもデータなく言い切られてしまうと「そうなのか」と納得して信じ込ませてしまう力を持っていることを非常に危険に感じる。

いちいち指摘しないが、参政党の予定候補たちが語る歴史認識も科学的知識も、通説とされているものと大きく異なることを持ち出して語る場面が多々ある。そしてそれらについて「既存メディア」という闇の勢力が見せないようにしている情報である、と検証なしに信じたくなってしまう心理をたくみに利用していると言わざるを得ない。

またここにきて、神谷氏の演説にヒロイズムが加わっている。急速に大きくなった参政党を率いていることで、身の危険を感じざるを得ない状況にあり、万が一、自分が運動できなくなるような状況になっても、志を繋いでくれる人たちを育ててきた、という内容の演説をするようのなっており、カリスマの危機を伝えて支持者の結束を強めている。この方向性が今後、どのように展開するかについて今のうちから注視しておきたい。

以上の通り、自然主義や子育ての問題など、一部左派・リベラルが得意な分野を飲み込みながら、右派・ナショナリズムの思想をベースに成長してきている前例のない政治団体「参政党」について考えてきた。いうまでもなく私の立ち位置から見えてくる一面的な考えではあるが、大手メディアからは諸派扱い、インターネットでは熱狂的な賛意と、激しい反発の両極端の意見に晒されている参政党について考える補助線になれば幸いである。